「割安」と言われても、何と比べているのか分からなかった
決算の数字が読めるようになると、次に必ずぶつかる言葉があります。
「この株はPERが低くて割安」
初めて見たとき、私にはこれが何を言っているのか分かりませんでした。何かと比べて安いと言っているのは伝わりますが、その「何か」が示されていないからです。
調べてみると、この二つはどちらも割り算の結果でした。そして割り算である以上、分母と分子が何なのかを押さえれば、あとは素直に読めます。
この記事では、株の話に必ず出てくる二つの指標を、経理の言葉で整理します。計算式は出しますが、暗記する必要はありません。
なお当サイトは、特定の銘柄をすすめる場所ではありません。物差しの話に絞ります。
PER:稼ぎに対して、株価が何倍か
まずひとつ目です。日本語では株価収益率と呼ばれます。
株価が、1株あたりの利益の何倍になっているかを表した数字です。
何年分の利益で元が取れるか、と読む
この数字がしっくりきたのは、こう言い換えたときでした。
いまの利益水準が続くとしたら、投資した金額を何年で回収できるか。
15倍なら15年分、10倍なら10年分。会社を丸ごと買う立場で考えると、この読み方が自然です。実際、企業の買収を検討する場面でも似た発想が使われます。
低ければ安い、と単純に言えない理由
ここが落とし穴でした。数字が低いのには、たいてい理由があります。
市場がその会社の将来に期待していない、業績が落ちる見通しがある、その業界自体が縮小している。こうした場合、数字は低く出ます。
逆に数字が高いのは、これから利益が伸びると見込まれている場合です。現在の利益に対して割高でも、将来の利益に対しては妥当という判断が入っています。
つまりこの指標は、割安かどうかを教えてくれるのではなく、市場がその会社をどう見ているかを教えてくれるものだと理解しています。
業種をまたいで比べない
これも実務的に大事な点です。業種によって、この数字の水準はまるで違います。
成長が期待される分野は高め、成熟した分野は低めに落ち着く傾向があります。違う業種の会社を、この数字だけで並べても意味がありません。 同じ業種の中で、あるいは同じ会社の過去と比べるのが基本です。
利益がマイナスだと計算できない
赤字の会社では、この指標は出せません。分子にあたる利益がマイナスだからです。
「数字が出ていない」ときは、計算できない状態かもしれない。ここは覚えておくと、画面の空欄に戸惑わずに済みます。
PBR:会社の中身に対して、株価が何倍か
もうひとつが株価純資産倍率です。今度は利益ではなく、会社が持っている財産と比べます。
解散したら、いくら残るか
会社の資産から負債を引いた残りが、純資産です。おおまかに言えば、いま会社をたたんだ場合に株主の取り分になる部分にあたります。
その1株あたりの金額に対して、株価が何倍かを見るのがこの指標です。
1倍という境目
1倍なら、株価と会社の中身がおおむね釣り合っている状態です。
1倍を下回ると、会社が持っている中身より、市場での値段のほうが安いことになります。理屈だけ見れば妙な話ですが、実際にはよくあります。
理由はいくつか考えられます。持っている資産が帳簿の金額どおりに売れるとは限らないこと、そしてその資産を使って利益を生み出せていないと見られていること。
経理をやっていると、後者の感覚がよく分かります。資産は持っているだけでは価値を生みません。 使って利益に変えられて初めて意味を持ちます。
この指標が効きにくい会社もある
工場や設備を多く持つ会社では、この数字は意味を持ちやすくなります。一方、人と知識が中心で、目に見える資産が少ない会社では、実態を映しにくくなります。
会社の価値がどこにあるかによって、使える物差しが変わるということです。
二つを一緒に見ると、何が分かるか
片方だけでは判断材料になりません。私は並べて眺めるようにしています。
| 組み合わせ | 読み取れること |
|---|---|
| 両方とも低い | 市場の評価が低い。理由の確認が要る |
| 両方とも高い | 期待が大きい。裏切られたときの反動も大きい |
| 利益に対して高く、資産に対して低い | 資産を持っているが、稼げていない可能性 |
| 利益に対して低く、資産に対して高い | 一時的に利益が膨らんでいる可能性 |
大事なのは、この表で答えを出すことではありません。どこに違和感があるかを見つけて、そこから決算の中身に戻るための入口として使っています。
「予想」と「実績」で、同じ会社でも数字が変わる
これは実際に画面を見ていて混乱した点です。同じ会社なのに、見る場所によって数値が違うことがあります。
理由は、計算に使う利益が違うからです。前の期に確定した利益を使うのか、会社が今期の見通しとして出している利益を使うのか。前者を実績、後者を予想と呼びます。
見通しのほうを使えば、これから利益が伸びる会社は数値が低く出ます。同じ株価でも、どちらの利益で割ったかで印象が変わるわけです。
だから、数値を比べるときはどちらの基準かをそろえてください。異なる基準の数字を並べると、比較にならないどころか逆の結論になりかねません。
そして見通しは、あくまで会社の見立てです。期の途中で変更されることがあります。私は数値そのものより、その見通しが変更されたかどうかのほうに注目するようになりました。
配当の指標とのつながり
前に配当金の受け取り方を書きましたが、そちらの話とここはつながっています。
利益のうち、どれだけを配当に回しているかを示す割合があります。稼ぎと株主への還元の関係を見る数字です。
この割合が極端に高い場合、利益のほとんどを配ってしまっていることになります。手元に残る分が少なければ、将来への投資も、業績が落ちたときの備えも細くなります。
逆に低ければ、内部に蓄えているということです。それが将来の成長につながるのか、ただ貯めているだけなのかは、事業の中身を見ないと分かりません。
利益をどう配分しているかには、その会社の考え方が表れます。 私はここを、数字を通して経営の姿勢を読む部分だと考えています。
数字はどこで見られるのか
最後に実務的な話です。特別な有料の道具は要りません。
証券会社の銘柄ページには、たいてい主要な指標が並んでいます。会社が公表している決算の資料にも、1株あたりの利益や純資産は記載されています。
私が心がけているのは、まとめられた数字を見たあとに、必ず一次の資料へ戻ることです。まとめは便利ですが、いつ時点の、どの基準の数字なのかが分かりにくいことがあります。
手間はかかりますが、自分で確かめた数字は忘れません。 経理の仕事で、集計表だけ見て伝票に当たらないと痛い目を見るのと同じ感覚です。
経理の目線:この二つを鵜呑みにしない理由
私がいちばん気をつけているのは、どちらも割り算だという点です。
割り算である以上、分母か分子のどちらかが動けば結果は変わります。株価が下がっただけで、数字は割安に見えます。 会社が良くなったわけではないのに、です。
そしてもう一つ。分子にあたる利益には、一時的なものが混ざっている場合があります。 本業以外で大きな利益が出た年は、数字が実力より良く見えます。
だから私は、指標を見たあとに必ず決算の中身へ戻ります。売上と利益がどう動いているか、その利益は本業から出ているか。この確認の仕方は決算短信で最初に見る5つの数字にまとめました。
指標は入口であって、結論ではない。 これが1年見てきた実感です。
よくある誤解を三つ
私自身が取り違えていた点を挙げます。
数字が低い会社を選べばいい、と思っていた。 低いことには理由があります。理由を確かめずに拾うのは、値札だけ見て中身を見ないのと同じでした。
業種をまたいで比べていた。 水準が違うものを並べても、順位に意味はありません。
一度見て終わりにしていた。 株価も業績も動きます。ある時点の数字は、その時点の写真にすぎません。
記録として何を残すか
最後に実務の話です。気になる会社を見つけたら、私はその時点の数字と、そう思った理由を書き残すようにしています。
数か月後に見返すと、自分の見方が当たっていたのか外れていたのかが分かります。当てることより、外れ方の癖を知るほうが役に立ちます。
特別な道具は使いません。表計算のファイルに一行足すだけです。経理で試算表を月ごとに並べるのと、やっていることは同じです。
証券口座があれば、気になる会社の指標と決算を、同じ画面で行き来しながら確かめられます。▶ 日本株を始めるなら【DMM 株】!(PR)
まとめ
要点を並べ直します。
- 株価収益率は、稼ぎに対して株価が何倍かを示す。何年分の利益で回収できるか、と読むと分かりやすい
- 数値が小さいことは安さの証明にならない。むしろ投資家がその会社に何を織り込んでいるかの表れ
- 業種によって水準が違うため、異なる分野の会社を並べても意味がない
- 赤字の会社では、そもそも計算できない
- 株価純資産倍率は、会社が持つ中身に対して株価が何倍かを示す。1倍が一つの目安
- 中身より安く評価されるのは、その資産を稼ぎに変えられていないと見られている場合がある
- 目に見える資産が少ない会社では、この物差しは効きにくい
- どちらも割り算なので、株価が動くだけで数値は変わる。会社が変わったわけではない
- 一時的な利益が混ざると、実力より良く見えることがある
- 指標で違和感を見つけ、決算の中身に戻る。この順番で使う
数字そのものより、なぜその数字になっているのかを説明できるか。私はそこを目標にしています。
繰り返しになりますが、当サイトが扱うのは会社の読み解き方です。何をいつ買うかの判断は、あなた自身の手で行ってください。