「上方修正」のニュースで株価が下がった日、意味が分からなかった
決算短信の数字が読めるようになってきたころ、ひとつ腑に落ちない出来事がありました。
ある会社が「業績予想の上方修正」を発表した翌日、株価が下がったのです。
上方修正は「予想より良くなりそうです」という知らせのはずです。良い知らせで下がるなら、何を見て判断すればいいのか。ここで初めて、決算短信の下のほうに載っている**「業績予想」の欄**をきちんと読んでいなかったことに気づきました。
この記事では、決算短信に必ず付いてくる業績予想が何なのか、上方修正と下方修正はどういう場面で出るのか、そして良い知らせのはずの修正で株価が反対に動く理由を、経理の目線で整理します。
なお当サイトは、特定の銘柄をすすめる場所ではありません。読み方の話に絞ります。
業績予想とは、会社が自分で出す「今年の着地見込み」
まず言葉の確認からです。
決算短信の1ページ目には、直近の実績(売上高・営業利益・経常利益・純利益)が並びます。その下に、**「業績予想」**という欄があります。ここに載っているのは、会社が「今期はこのくらいの売上と利益で終わりそうです」と自分で見積もった数字です。
経理の仕事でいう予算にいちばん近いものです。年度の初めに立てた計画があり、四半期ごとに実績と照らし合わせ、見込みがずれてきたら見直す。会社の中で毎月やっている作業を、外に向けて公表しているのが業績予想だと考えると分かりやすいと思います。
「通期予想」と「第2四半期累計予想」
欄をよく見ると、予想が二段になっている会社があります。上の段が上半期(第2四半期累計)まで、下の段が1年分(通期)です。
ニュースで単に「業績予想を修正」と出ているときは、たいてい通期のほうを指しています。ただ、上半期の予想だけを直して通期はそのまま、という開示も珍しくありません。どちらの段の話なのかを最初に確認する。これだけで読み違いがかなり減ります。
会社予想と、市場の予想は別物
もうひとつ、初心者のうちに混同しやすいのが「誰の予想か」です。
- 会社予想:決算短信に載る、会社自身の見込み
- 市場予想:証券会社のアナリストなどが出す見込みの平均。コンセンサスとも呼ばれる
株価の反応を左右するのは、実は後者との差です。ここが冒頭の「上方修正で下がった」の答えにつながるので、後ほど戻ります。
決算短信のどこに載っているか
場所を具体的に押さえておきます。
決算短信の表紙をめくった1枚目、実績の表の下に「業績予想(〇年〇月期)」と見出しのついた表があります。列は実績と同じで、売上高・営業利益・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益、そして1株あたりの純利益です。
その横か下に**「前回発表予想からの修正の有無」**という一行があります。ここが「有」になっていたら、その決算で予想が直されたということです。修正の理由は、短信の中ほどにある「業績予想などの将来予測情報に関する説明」に文章で書かれています。
数字の表だけ見て終わらせず、この説明文を読む。私が経理で予算差異の報告を書くとき、数字より理由の欄を丁寧に書くのと同じで、理由の一文に会社の見方が出ます。
上方修正・下方修正は、どんなときに出るのか
ここからが本題です。
取引所のルールで、出さなければならない場面がある
業績予想の修正は、会社が気分で出しているわけではありません。上場企業には、公表済みの予想と実際の見込みが大きくずれた場合に、すみやかに知らせる決まりがあります。
目安として広く知られているのが、売上高で1割以上、利益で3割以上のずれが見込まれたときです。この水準を超えると、決算のタイミングを待たずに「業績予想の修正に関するお知らせ」という独立した開示が出ます。
つまり、決算発表日でもないのに突然修正のニュースが出るのは、このルールに触れたからだと読めます。逆に、これより小さいずれは、次の決算短信の中で静かに直されることが多いです。
上方修正が出やすい場面
- 想定より販売数量が伸びた、値上げが通った
- 為替が有利に動いた(海外で稼ぐ会社に多い)
- 原材料や燃料の価格が落ち着き、コストが下がった
- 資産の売却など、一度きりの利益が入った
最後の項目には注意が要ります。土地や株を売って出た利益は、来年も続くものではありません。純利益だけが上がって営業利益は変わらない修正なら、本業が良くなった話ではない可能性があります。この見分け方は決算短信で最初に見る5つの数字で書いた、「利益がどの段階で出ているか」の話とつながります。
下方修正が出やすい場面
- 販売が計画に届かなかった、受注が後ろにずれた
- 原材料費や人件費が想定を超えた
- 為替が不利に動いた
- 減損損失など、資産の価値を切り下げる処理が入った
こちらも、理由が一時的か構造的かで意味がまるで違ってきます。工場の設備を減損したなら、その分は一度限りです。一方で「主力製品の需要が落ちた」と書かれていたら、来期以降も尾を引くかもしれません。修正の理由を読んで、来年も続く話かどうかを自分で仕分ける。これが、数字を見るだけでは分からない部分です。
なぜ「良い知らせ」で株価が下がるのか
冒頭の疑問に戻ります。
答えは、株価は「発表の前に、みんなが何を期待していたか」との差で動くからです。
たとえば会社が営業利益の予想を100から120に上げたとします。数字だけ見れば良い知らせです。ところが、市場ではすでに「130くらいまで行くだろう」という見方が広がっていたとしたら、120という数字は期待に届かなかったことになります。この場合、上方修正でも株価は下がり得ます。
経理で言えば、予算を上回ったのに部長が渋い顔をする場面に似ています。部長の頭の中には、公表された予算とは別の「本当はこのくらい行けるはず」という数字があった。その数字に届かなければ、評価は上がりません。
逆もあります。下方修正が出たのに株価が上がることがあります。「もっとひどい数字を覚悟していたのに、思ったより浅かった」と受け止められたときです。
修正の方向ではなく、期待との差を見る。 この一点を押さえると、ニュースの見出しと株価の動きが食い違う日の混乱が、かなり減ります。
進捗率という見方と、その落とし穴
修正が出る前に、自分で「そろそろ直されるかもしれない」と気づく方法があります。進捗率です。
計算は簡単で、四半期までの実績の累計を、通期予想で割るだけです。第2四半期が終わった時点で営業利益の進捗が5割なら、ちょうど半分まで来ている計算になります。
ここで大きくずれていれば、修正が近いサインとして読めます。進捗が7割を超えているのに通期予想が据え置きなら、上方修正の余地があるかもしれません。3割に届いていなければ、下方修正の心配が出てきます。
季節性を無視すると読み違える
ただし、この見方には落とし穴があります。業種によって、売上や利益が偏る時期が違うからです。
年末商戦で稼ぐ会社は下半期に利益が集中します。上半期の進捗が3割でも、その会社にとっては例年どおりかもしれません。逆に、期初に大型案件を納める会社なら、上半期で7割いっていても普通です。
だから進捗率は、通期予想と比べるだけでは足りません。前の年の同じ時点の進捗率と並べることで、初めて「今年は早いのか遅いのか」が分かります。決算短信には前年同期の数字も載っているので、電卓ひとつで確かめられます。
会社ごとに「予想の癖」がある
もうひとつ、読み続けていると見えてくることがあります。会社によって、予想の出し方に癖があるという点です。
最初は控えめな数字を出して、期中に上方修正を重ねる会社があります。経理の感覚で言えば、予算を固めに組んで、達成できたら上積みするタイプです。この会社の上方修正は、驚きというより「いつもの流れ」として受け止められます。
反対に、強気の予想を出して、あとで下げる会社もあります。この場合、期初の数字をそのまま信じると期待が高くなりすぎます。
どちらが良い悪いという話ではありません。ただ、過去数年の「期初の予想」と「最終的な実績」を並べてみると、その会社の癖が浮かびます。癖を知ってから修正のニュースを読むと、同じ「上方修正」でも重みの違いが分かるようになります。
なお、こうした「会社が出す数字の妥当さ」を見る目は、PERとPBRの話にも直接効いてきます。株価収益率の分母になる利益が「予想」なのか「実績」なのかで数値が変わるからです。予想が動けば、指標も動きます。
経理の目で見た、修正の読み方の手順
私が実際にやっている順番を書いておきましょう。
- どの段の予想かを確認する(通期か、上半期か)
- どの利益が動いたかを見る(売上だけか、営業利益からか、純利益だけか)
- 理由の一文を読み、一度きりの話か、来期も続く話かを仕分ける
- 市場の見方との差を確かめる(修正後の数字が、それまでの期待を上回ったか)
- 過去の癖と照らす(この会社は控えめに出す会社か、強気に出す会社か)
5つとも、決算短信と過去の開示資料だけでできます。特別なデータは要りません。
記録として残しているもの
最後に実務の話です。私は修正のニュースを見たら、表計算のファイルに一行足しています。日付、修正前の数字、修正後の数字、会社が書いた理由の要約、そして自分がそのとき「一時的だと思ったか、続くと思ったか」の判断です。
数か月後に実績が出たとき、この判断が当たっていたかを見返します。当たることより、自分がどういう理由を軽く見がちかを知るほうが、次に役立ちます。経理で予算差異の原因分析を毎月書いていると、自分の癖が分かってくるのと同じです。
証券口座があれば、業績予想の修正のお知らせと過去の決算を同じ画面で並べて確かめられます。修正の履歴をさかのぼって「この会社の癖」を見るのにも向いています。▶ 業績予想の修正履歴も調べられる【DMM 株】で口座を開く(PR)
まとめ
要点を並べ直します。
- 業績予想は会社が自分で出す今期の着地見込み。経理の予算と同じ性格のもの
- 通期と上半期の二段があり、ニュースがどちらを指しているかを最初に確かめる
- 大きなずれが見込まれると、決算日を待たずに修正の開示が義務づけられている
- 純利益だけの修正は、資産売却など一度限りの要因のことがある。営業利益が動いたかを見る
- 修正の方向より、市場が事前に織り込んでいた期待との差で株価は動く
- 進捗率は前年同期と並べて初めて意味を持つ。季節性のある業種は特に注意
- 控えめに出す会社、強気に出す会社。数年分を並べると癖が見える
- ニュースを見たら一行記録し、後で自分の判断の傾向を振り返る
※本記事は、決算短信の読み方を整理したもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。