「この会社は財務が健全」と言われても、何を見て言っているのか分からなかった

決算短信を読み始めたころ、記事やニュースでよく見かける言い回しがありました。

「財務基盤が強固」「財務が健全」「無借金経営」

褒め言葉だということは分かります。でも、何の数字を見てそう言っているのかが、当時の私には見えませんでした。売上や利益の話なら損益計算書を見ればいい。では「健全」は、どこを見れば分かるのか。

答えのひとつが「自己資本比率」でした。この記事では、自己資本比率が何を表す数字なのか、決算短信のどこに載っているのか、どの水準をどう読めばいいのか、そして業種によって基準が違う理由を、経理の目線で整理します。

なお当サイトは、特定の銘柄をすすめる場所ではありません。物差しの話に絞ります。

自己資本比率とは、会社の持ち物のうち「返さなくていいお金」の割合

言葉の定義から入ります。

会社の持ち物(資産)は、元をたどると2種類のお金で買われています。**いずれ返すお金(負債)**と、**返さなくていいお金(自己資本)**です。借入金や買掛金は前者、株主から集めたお金や、これまでの利益の積み上げは後者です。

自己資本比率は、会社の持ち物全体のうち、返さなくていいお金で買った分が何パーセントかを表します。計算は、自己資本を総資産で割るだけです。

たとえば総資産が100で、そのうち自己資本が40なら、自己資本比率は40パーセント。残りの60は借入などの負債で調達している、という読み方になります。

家計にたとえると

持ち家の話に置き換えると分かりやすいと思います。3,000万円の家を、頭金1,200万円と住宅ローン1,800万円で買ったとします。この時点での「自己資本比率」は、1,200÷3,000で40パーセント。ローンを返していけば比率は上がり、リフォームで追加の借入をすれば下がります。

会社も同じで、利益を貯めれば比率は上がり、借入で設備投資をすれば比率は下がる。この動きが分かると、数字の増減が会社の行動として読めるようになります。

決算短信のどこに載っているか

場所を押さえておきます。

決算短信の1ページ目、業績の表の下に「財政状態」という小さな表があります。ここに総資産、純資産、そして自己資本比率がパーセントで載っています。計算しなくても、書いてある数字をそのまま読めます。

自分で確かめたい場合は、決算短信の後ろの方にある貸借対照表を開きます。「純資産合計」から、少数株主の持分や新株予約権を除いたものが自己資本で、それを「資産合計」で割ります。細かい調整はありますが、初心者のうちは短信の1ページ目の数字で十分です。

決算短信で最初に見る5つの数字では損益計算書の側の数字を扱いました。自己資本比率は貸借対照表の側の数字で、「稼ぐ力」ではなく「体力」を見る物差しです。両方を見ると、会社の姿が立体的になります。

水準の読み方:高ければ安全、だけではない

一般に、自己資本比率は高いほど「返す必要のあるお金が少ない=倒れにくい」と読まれます。ここまでは正しい。ただ、私が読み方を変えたのはその先でした。

目安の水準

業種によって大きく違うので、あくまで全体の目安として書きます。

  • 20パーセント未満:負債への依存が大きい。金利上昇や業績悪化に弱い可能性
  • 20〜40パーセント:一般的な製造業や小売業でよく見る水準
  • 40〜60パーセント:余裕がある。無理な借入をしていない会社に多い
  • 60パーセント超:非常に高い。実質的に無借金の会社もこの水準

高すぎる場合の読み方

比率が高いのは安全ですが、経理の目で見ると別の疑問が出てきます。お金を使っていないのではないか、という疑問です。

利益を貯め込むだけで投資に回していなければ、比率は上がります。安全ではあるけれど、会社が成長するための投資をしていない、株主に還元もしていない、という状態もあり得ます。配当性向の記事で書いた「利益の使い道」の話と裏表で、自己資本比率が高い会社は、その使い道をどうするつもりかを合わせて読む必要があります。

低い場合の読み方

逆に比率が低い会社が、必ず危ないわけではありません。借入で工場や店舗を増やし、その投資が利益を生んでいるなら、低い比率は「攻めている途中」の姿です。ここで見るべきは、借入に見合う利益が出ているかと、返済の予定が現実的か。比率の低さそのものより、その理由の方が大切です。

業種で基準がまるで違う

この数字を読むうえで、いちばん最初に知っておきたいのがこの点です。

銀行や保険は低くて当たり前

銀行の自己資本比率は、一般の会社の感覚で見るとかなり低く出ます。預金は銀行にとって「預かっているお金=負債」なので、資産の大半が負債で調達されている形になるからです。この業種には別の規制上の基準があり、一般の会社の目安で読むと完全に読み違えます。

設備が重い業種は低め、身軽な業種は高め

鉄道、電力、不動産のように大きな設備を長期の借入で持つ業種は、比率が低めに出るのが普通です。逆に、ソフトウェアやサービス業のように設備をあまり持たない業種は、高めに出やすい。

つまり、自己資本比率は業種をまたいで比べる数字ではありません。同じ業種の会社どうし、あるいは同じ会社の過去との比較で使うのが基本です。PERとPBRの記事で書いた「業種をまたいで比べない」という注意は、この数字にもそのまま当てはまります。

経理の目で見る、確かめ方の手順

私が実際にやっている順番を書いておきます。

  1. 決算短信1ページ目の「財政状態」で数字を見る
  2. 同じ業種の会社を2〜3社並べる。水準の感覚をつかむ
  3. 同じ会社の3〜5年分を並べる。上がっているか、下がっているか
  4. 動いた年の理由を探す。大型の借入か、大きな損失か、増資か、利益の積み上げか
  5. 手元の現金と借入の内訳を見る。比率が同じでも、現金が厚い会社と薄い会社では意味が違う

4番目は経理の癖です。比率が急に下がった年は、貸借対照表の負債の側で何が増えたかを見ます。長期の借入が増えていれば投資、短期の借入が増えていれば資金繰り、という具合に、増えた項目の種類で会社の状況が分かります。

有利子負債と現金を合わせて見る

自己資本比率と一緒に見ると理解が深まるのが、有利子負債(利息を払って借りているお金)と手元の現金の関係です。

負債には、借入金のように利息がつくものと、仕入先への未払いのように利息がつかないものがあります。同じ自己資本比率40パーセントでも、負債の中身が利息つきの借入ばかりの会社と、通常の商取引の未払いが中心の会社では、負担の重さが違います。

さらに、借入があっても、それを上回る現金を持っていれば、実質的には借金がないのと同じです。この状態を「実質無借金」と呼ぶことがあります。経理の感覚では、自己資本比率で大枠を見て、有利子負債と現金の差し引きで実態を見る、という二段構えが自然です。決算短信の貸借対照表で、借入金の行と現金の行を見比べるだけで分かります。

この数字だけでは分からないこと

この数字は便利ですが、万能ではありません。私が痛感した限界を挙げます。

タイミングは分からない。 比率は期末の一時点の写真です。期中に借入が増減していても、期末の数字には出ません。

資産の中身は分からない。 総資産の中に、売れない在庫や回収できそうにない売掛金が含まれていても、比率には反映されません。中身の質は、別の数字や注記で確かめる必要があります。

現金の流れは分からない。 比率が高くても、利益が出ていても、現金が入ってこなければ会社は回りません。キャッシュ・フロー計算書を合わせて見る理由はここにあります。

だから私は、自己資本比率を「入口の数字」として使っています。この数字で違和感を見つけたら、貸借対照表の中身へ降りていく。指標で見つけて、明細で確かめる。経理の月次の仕事とまったく同じ順番です。

よくある誤解を三つ

私自身が取り違えていた点を挙げます。

高いほど良い会社だと思っていた。 高い比率は安全の証拠であると同時に、お金を使っていない証拠でもあり得ます。使い道を合わせて読む必要がありました。

業種を無視して比べていた。 銀行と製造業を同じ物差しで並べて、銀行が危ないと勘違いしました。

一年の数字で判断していた。 比率は行動の結果なので、数年の推移で見て初めて意味が出ます。一時点の写真より、数年分の動画です。

記録として残しているもの

最後に実務の話です。気になる会社について、私は表計算のファイルに「年度、総資産、自己資本、自己資本比率、有利子負債、現金、動いた理由」の7項目を一行で残しています。

数年分たまると、その会社が「借りて攻める会社」なのか「貯めて守る会社」なのかが、数字の並びから見えてきます。どちらが良いという話ではなく、その会社の性格を知ること。経理で各部門の予算の使い方の癖を覚えるのと同じで、性格が分かれば、次の決算の数字の意味も読めるようになります。

証券口座の銘柄ページには、自己資本比率や有利子負債の推移がグラフでまとまっていることが多く、決算短信を一年ずつ開く前に全体の傾向をつかむのに向いています。▶ 財務の推移をグラフで確認できる【DMM 株】で口座を開く(PR)

まとめ

要点を並べ直します。

  • 総資産に占める、負債ではない調達分の割合を示す数字。会社の体力の物差し
  • 利益を貯めれば上がり、借入で投資すれば下がる。数字の動きは会社の行動として読める
  • 短信の冒頭にある財政状態の欄で確認できる。損益計算書の数字と合わせて立体的に見る
  • 高ければ安全だが、お金を使っていない可能性もある。低くても、投資が利益を生んでいれば攻めの姿
  • 銀行は構造上低く出る。大きな設備を借入で持つ業種と、身軽なサービス業では水準がまったく違うため、同じ業種内で比べる
  • 同じ業種で並べ、同じ会社の数年分を並べ、動いた年の理由を負債の内訳で探す
  • 一時点の写真であり、資産の中身や現金の流れは別に確かめる

※本記事は、決算短信の読み方を整理したもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。